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カラーコーディネーターとは?色彩のプロフェッショナルの実務

カラーコーディネーターとは、色彩についての知識と配色スキルを持つ専門家のことです。カラーコーディネーターが活躍する分野は、ファッション、メイクアップ、インテリア、プロダクトデザイン、建築環境、グラフィックデザイン、Webデザイン、ビジュアルコミュニケーションなど、多岐にわたります。カラーコンサルタントやカラーアドバイザーとも呼ばれます。

ものづくりのプロセスには、調査、企画、製造、販促、評価の5つの工程があります。
これらの各工程で、カラーコーディネーターの知識とスキルが求められます。
カラーコーディネーターの実務には、色彩調査・分析、色彩計画・設計、色彩管理、色彩評価があります。
ここでは、ものづくりの各工程におけるカラーコーディネーターの実務について、解説します。

【目次・カラーコーディネーターの実務】

調査-色彩調査・分析

プロダクトを企画する前段階として、市場に対する色彩調査と分析を行います。
ターゲット(プロダクトを購入してくれる顧客層)のデザイン志向や商品展示会で提案されている新たなデザイン傾向などを調査し分析します。
色彩の市場調査には、安定的に長く売れている色を調べる「量」の視点と、新しい色味や配色を調べる「質」の視点があります。

量を売る色

「量を売る色」 とは、売れ行きが良い定番色のことです。
無難で新鮮さがない色が多いですが、売り上げの多くを占めるため、ビジネス上、非常に重要な色となります。定番色は、製品分野ごとに異なるため、分野ごとに適切な手法で調査・分析を行います。
「量を売る色」の調査は、対象に適したカラーシステムを用いて、過去の販売実績の色彩統計をとることで行います。
一般的な色彩調査には、カラーシステムにヒュー・トーンシステムを使用します。色の分類を50~100色程度、より細かいものだと200色程度の精度で行うことができます。よく使用されるヒュー・トーンシステムには、40色の分類ができる「JCC40(JAFCA COLOR CODE 40)」や、267色の分類ができる「JBCC(JAFCA BASIC COLOR CODE)」などがあります。
これより細かい分類が必要な場合は、5000色程度の表示精度を持つ「マンセル表色系」や、100万色以上の表示精度を持つ「XYZ表色系」や「L*a*b*表色系(エルスターエースタービースター)」を使用します。これらの表色系は、マンセル表色系を介してヒュー・トーンシステムに変換することもできます。
変換できるヒュー・トーンシステムには、「JIS系統色名」、「JBCC」、「日本色彩研究所・調査用カラーコード」などがあります。

質を売る色

「質を売る色」とは、これまでにない色味や配色で、新規性の高い色のことです。
定番色のように安定的に売れることは期待できませんが、プロダクトの注目度を高める効果や、話題性によって市場を活性化する効果があります。数量限定のキャンペーンカラーという付加価値で売る、あるいは、その時代を彩るトレンドカラーとして売るという形が多いです。また、新規の色味、配色にチャレンジすることは、潜在的な色彩のニーズを発掘することにつながります。一過性の流行に終わらず、長く愛され、生活に取り入れられる色となる可能性もあります。
「質を売る色」の調査は、実際に売り場や展示会を観察したり、製品カタログを参照したりする方法と、市場の色彩動向について発信するカラートレンド情報やデザイン専門誌を参照する方法があります。


企画-色彩計画・プロダクトの色彩設計

色彩調査・分析から得られた市場動向を踏まえて、色彩計画を行います。
色彩計画では、プロダクトのコンセプトと色彩の価値に基づいて、色選定の方針を定めます。
色彩計画策定後、カラーパネルなどのビジュアル資料を作成して、色選定プレゼンテーションを行います。そして、選定された色をベースにプロダクトの色彩設計を行います。
色選定をする上での視点には、色そのものの価値の視点、配色の視点、ターゲティングの視点の3つあります。

色そのものの価値の視点

色そのものが持つ価値には、情報価値と機能価値があります。
色の情報価値は、時代性を表すトレンドカラー(流行色)やブランドのコンセプトを表すブランドカラー、長い歴史を持つトラディッショナルカラー(伝統色)のように、色が持つ象徴的な意味のことです。
色の機能価値は、耐光性(光によって変色しにくい性質)や耐候性(屋外で使用された場合に変色しにくい性質)といった、色が持つ物理的な性能のことです。また、テクノロジーの進歩によって生み出される、より発色の良い色材、光沢剤(パール剤など)、構造色などにより、今までにない色が生み出されることもあります。

配色の視点

プロダクトデザインでは、配色の審美性と機能性が重要となります。
配色の審美性は、プロダクトに美しさを与え、ユーザーの満足度を上げる効果があります。配色の機能性は、色の識別性などを利用して、プロダクトに機能を与えたり、使いやすさを向上させたりする効果があります。
色彩設計をする場合、プロダクト単体の配色と、複数のプロダクトを組み合わせた時のカラーコーディネートの両方について考慮する必要があります。

ターゲティングの視点

ターゲティングに基づいた色選定は、プロダクトのユーザーの満足度を上げる効果があります。
ターゲティングとは、市場を細分化して分析を行い、ターゲット(購買層)を絞り込んでマーケティング戦略を立てることです。
市場は大きく分けると、パブリック(公共的)とプライベート(私的)があります。パブリックなプロダクト(景観、公共建築、公共交通など)は、不特定多数に利用されるため、多くの人にとって違和感がなく、親しまれやすい色とすることが望まれます。プライベートなプロダクト(個人の所有物)は、個人が満足すればいいため、色の自由度は高くなります。
プライベートなプロダクトの市場は、住んでいる地域、年齢、性別、職業、収入、ライフスタイルなどによって細分化することができます。例えば、「都市部に住んでいる30代の女性」などとターゲットを設定し、好まれそうな色を選定します。


製造-色彩管理

色彩設計によって指定された色をプロダクトの製造・施工で実現するために、色彩管理を行います。
現場の色彩技術者に対して、色の指定や確認、修正指示を行い、正確な色で製造・施工されるよう管理します。
プロダクトの色彩管理には、厳密な色指定ができる「XYZ表色系」や「L*a*b*表色系(エルスターエースタービースター)」が使われることが多いです。表色系や色材の知識を持つことで、色彩技術者と的確なコミュニケーションをとることができるようになります。


販促-広告の色彩設計・ディスプレイの照明計画

プロダクトを販売する段階では、販売促進のために広告や店頭展示を行います。
ポスターやWeb広告などの広告デザインは、配色の機能性と伝達性が重要です。プロダクトの色彩意図を反映したコンセプトが伝わるデザインでありつつ、視認性や誘目性によって目に留まるデザインとすることで、効果的な広告となります。
店頭展示のディスプレイデザインにおいても、配色の機能性と伝達性が求められます。
ディスプレイデザインにおける伝達性の手法に、ビジュアルプレゼンテーション(VP:visual presentation)があります。視覚的アプローチでコンセプトを伝える手法で、プロダクトが使用されるシーンを演出する、複数のプロダクトのコーディネーションを提案するといった方法が用いられます。
ディスプレイデザインでは、ライティングの知識とスキルも必要となります。照明の光色、演色性、照度、光の角度などによって、色彩の印象が大きく変わります。


評価-色彩評価

デザインは、ユーザーの反応を通して評価されます。そして、その評価をフィードバックすることで、次のデザインに生かすことが重要です。
色彩評価では、カラーバリエーションごとの売れ行き、新規色に対する反応、ビジュアルプレゼンテーションの効果などについて、色彩の知識に基づいて客観的に評価します。


まとめ

カラーコーディネーターの実務について解説しました。
ものづくりの調査、企画、製造、販促、評価の各工程で、カラーコーディネーターによる色彩業務が必要となります。
色彩の専門知識と配色スキルは、魅力的なプロダクトを生み出すのに欠かすことはできません。